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ももと病院に到着し、なぜかやたらと混み合う病院を右往左往しながら、ようやくアヤの病室にたどり着いた。
おそらく、元は四人部屋だった病室を無理やり6人部屋にしたのではないかと思う。隣のベッドとの間には、丸椅子一つ置く隙間もなく、黄ばんだカーテン一枚で危うく仕切られていた。アヤはそんなベッドの中で、パジャマ代わりのピンクのジャージを着て、でかいリロスティッチのぬいぐるみに見守られながら、パジャマと同じピンクのガラケーをいじっていた。
「あ、来てくれたんだー」
弱々しく微笑み、青白い顔で細い体を起こすアヤを見た時の衝撃を、どう伝えればいいだろう。
その瞬間、私の頭を占めたのは、ピンクってこんなに惨めな色だったっけということだった。
ショックを押し隠しながら、私たちは居場所のない病室を出て3人で中庭に行くことにした。何を話したのか覚えていない。ただこの病院は、私が知る限り最低最悪の病院だということだ。
患者なのかその家族なのか病院スタッフなのか、よくわからない人々がうろうろと歩き回り、まるで駅のロータリーにいるような無国籍な感じだった。その中には、明らかに焦点の合っていない目をした彼方の住人が、のそのそと果てなき混沌の海を漂っていた。
とても思春期の女の子がいていい場所じゃない。
「ヤスが帰ってこなくてさー、眠れなくなっちゃって、病院で眠剤もらったはいいけど、薬飲んでるのに眠れなかったらどうしようと思ったら怖くて、ついつい飲みすぎちゃって、気がついたら手首切ってて病院にいた」
アヤは、いつもののんびりした口調で「ごめーん」と苦笑した。
ヤスというのがアヤのカレシだ。このクズは、愛の名の下に甘い言葉でアヤを縛りつけ、都合よく稼ぎを吸い上げ、アヤの人間関係をシャットアウトして二人だけの世界に閉じ込めていたくせに、気まぐれに放置した。
ももとアヤは二人でベンチに腰掛け、お菓子を食べながら、いつものようにどうでもいい会話でヘラヘラと笑いあっている。
「もも、お母さん先に帰るけど、迎えに来て欲しかったら電話して」
「わかった」
私は、この我慢ならない狂った場所から逃げ出した。
でも何より狂っているのは、まだたった17歳の女の子を、このひどい病院へ放り込んだのが、アヤの実母だということだ。
アヤの母親は、3度目の再婚相手と海外旅行へ行くために、我が子をここへ放り込んだ。
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