【序章】0.いつの間にか赤ん坊

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──それは本当に突然だった。 「・・・ああ?」 上を見れば緑、下を見ても緑、横を向いても緑。ここにいれば視力が良くなるのではないか、と思う程の新緑である。 ・・・・・・そう、正しくここは──俗に言う森だった。 「あ・・・?」 沢山の木々に囲まれ、鬱蒼とした草の上。どうやら私はそこに座っているようだ。 たっぷりと時間をかけてソレを認識した後、 「・・・・・・うぁああああ!?」 思わず叫んでしまってから、慌てて口元を手で抑える。 ・・・・・・とりあえず深呼吸をして、暴れる心を落ち着かせると、次第に冷静な判断が出来るようになった。 よし、まずは状況を整理しようじゃないか。 頭の中で、自身の行動を振り返ってみる。 私は一宮(いちみや)(ゆう)、23歳女──私はさっきまで、自宅で缶ビールの一気飲みを試みていた。 そして、それは無事成功し、達成感と共に目を開けた次の瞬間、森にいた。 ・・・・・・うん、訳が分からない。ビールを飲んだら森にいました?・・・・・・何のドッキリなのだろうか。 はあ、とついたため息が虚しく消える。 ──これじゃ、何も進まないじゃないか。 というか、人生最後の行動がビール一気飲みとか何やってんだ、私は。 その上、だ。もしかしてとは、思っているが── 私は試しに声を出す。 「おぎゃ、ううあー・・・・・・うああ」 『バカヤロー』と叫ぼうとしたが、出てきたのは悲しきかな只の喃語だった。 ・・・・・・やはり赤ん坊になってないか?私。 小さくふにふにと可愛らしい手足、幼児特有の甲高い声、恐ろしく低い視線──その全てが、赤ん坊そのものだ。 ・・・・・・待て待て待て、私は成人していた筈だ。何故、若返っている? いや、確かに若返り願望はあったが、ここまで若返ると笑えない。ほんとに。 「うあ・・・・・・」 状況が不可解極まりない。・・・・・・認めたくはないが、自身の記憶に基づいて推定すると、どうやらこれは転生というものらしい。 私が読んだ電子書籍のテンプレでは、死亡後・・・・・・つまり転生前に金髪巨乳の女神様に会い、チート能力を貰うらしいが、世の中そう甘くないようだ。残念。 チートは無くてもいいが、直ぐに死ぬのは御免被りたいな。 私はもぞもぞと尻を動かし、座り直す。 「あう」 さて、一息ついた所で今の状況を説明してみよう。 静かな森の中に赤ん坊が1人。それも裸の。 神様がいるなら、今すぐ言いたい。 ──これからどうしろと。
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