87人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
鷹人間の眼
「はぁ……疲れた、食堂車で何か食べたいな」
『疲れた時は甘い物』という都合のいい言葉を、任務や仕事の後は堂々と使える。
マスク姿のオッサンは隣の屋根に残っていたので、移動して聞いてみる。
「あの、もう帰るんですか?」
腕組みしてこちらをガン見していたが、呆然と立ち尽くしてる感じだった。
「すいません、終わりですか?」
走る列車の上なので、聞こえにくいのかもと、声を大きくしてみる。
ハッとしたように腕を解くとゴホッと咳き込み、背中を叩いてあげた。
「ああすいません、いや突然で色々驚いてしまって」
「……はぁ」
二人で下に降りると滋さんが現れたのでジロッと睨んだ。
いや俺も加勢したよ『狙撃で』と、自分をフォローしている。
「社長、オーナーの狙撃は成功したけど鷹人間に逃げられてさ、ダサいから後で悪口言ってやって」
と聞いても、キツネ面でダメなら誰も無理だと分かるので何も言えない。
「戻るんですか?」
「俺達はこのまま鷹の世界に入るけど、百合ちゃんは……」
帰りたいし、いい加減休ませて欲しいと猛抗議した。
次の駅で降り口を尖らせる滋さんをスルーし、残りのメンバーに挨拶をしたが、皆『魔王』でも見たようにビビッてる気がする。
全員敬語になり、目を合わせないのも化け物扱いされてるようで、慣れているがズキンとくる。
なのに照れてないで言ってみればと、滋さんは皆の背中を叩いて押していた。
「えっ?!」
「可愛くて噂以上に強いから、アイドル目の前にしたファンの気分なんだよ」
「あ、握手してもらえますか?」
「あ、はい……」
帽子を深くかぶってるので、誰がどれか分からないが、何故かプチ握手会を終え扉を潜る事になった。
「いい?あの子は俺のだから手を出したら殺すからね」
「いや、まだ彼氏はいない匂いがする。恋愛は自由だろう」
どんな匂いか知らないが、当たっているのが何となく恥ずかしい。
「アンタは歳考えたら?社長の次にナイ」
そういう滋さんと掴み合いが始まったが、静かに礼をしてから扉を出し、パネル部屋に戻った。
最初のコメントを投稿しよう!