僕は太陽を見たことがない

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僕は電車。強い電車……と言いたいところだが、全然強くない。 陽の光を浴びることの出来ない僕の体はいつまで経っても日焼けなんかしないし、地上のことなんて、一体全体どうなっているのか皆目見当もつかない。 ここにいれば、線路に石を置いたりするイタズラなカラスとやり合うこともなければ、踏み切りに侵入してきた何かとぶつかることもない。 とにかく、僕は外の車体とは違って経験が少ないから、トラブルに弱いのだ。 だけども、僕はいつだって頑張って働く。 僕の仕事はご存じの通り、人間を乗せて、走って走って走りまくること。 それだけで言えば外の電車たちと変わらないんだけど、僕の場合は昼か夜かもわからないトンネルの中という無機質な空間をただ真っ直ぐに進むだけ。 トンネル上部の蛍光灯がなければ、僕の進路で何が起きているかすらわかりやしない。 だから僕は暗闇では怖くて働けない。 いやね、寝る時は真っ暗にするんだけどね。 でも、動いてる時は眩しいくらい煌々と目を光らせてるんだ。だって、いつ脱線するかとヒヤヒヤするじゃないか。 まあ、地下鉄の僕は例え倒れたとしてもバッタリということはなくて、きっと回りのコンクリートが受け止めてくれるだろうけど、結構な速度で走ってるから当たったら絶対痛いし、削れちゃうし、凹んじゃうし……ガクブル。 なんせね、ほら、僕は弱い電車だから。色白だし。病弱だから。 それにね、お腹に乗せてる人間だって怪我しちゃうだろうし、事故なんて起こした日にはクビになってしまう。 電車には、労災保険も傷病手当ても休業保証もない。 待っているのは廃車だ。 まだ鉄屑には戻りたくない。
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