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言い終える前にクロスは寝落ちた。しかもスライディング就寝したにも関わらず、見事なまでのノンレム睡眠を決め込んでいる。もし入眠選手権大会があったら紛うことなき優勝である。
ジェイドはそんなクロスを見つめながら溜息を吐く。
「…治癒力があっても、この人の場合デメリットでしかないな。」
クロスは自らの治癒力を過信しているわけではないが、自己の体調に関して無頓着であった。
大概の怪我も、大概の毒も、即死性のものでなければ、クロスは2日くらいで治癒してしまう。
そのせいで普通だったらやらないような無理もクロスはしてしまう。そして、それが人を救う事に関わっているのなら尚更。
ヒロイズムといえば聞こえはいいかもしれないが、クロスのそれはただの破滅的な善性だ。
どうしたらこんな風になってしまうんだろうとジェイドは考えるが、いつもその答えは見つからなかった。
答えはいつもクロスの中にあるけれど、クロス自身が絶対にそれを開けようとしないのだ。
「…俺も言えた立場じゃないか。」
ジェイドはつぶやく。
ジェイド自身も閉ざしている事はある。
だからこそ、分かる。本当に言いたい言葉は、いつだって声になって出ないものだと。
それでもー…。
「…俺は何があっても、アンタに一生ついていくって決めてるんですけどね。」
ジェイドの言葉は木々のざわめきに掻き消された。
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