真っ白な手紙

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 私は会社へ出勤するため地下鉄に乗り、満員電車に揺られながら、ふと今日の朝ポストにあった不可解な手紙のことを思い出した。  今日の朝のことだ。いつものように家の外のポストへと朝刊を取りに行くと、そこには朝刊ともう一つ真っ白な手紙が入っていた。私宛で差出人は不明だった。なんだろうかと思ったが、その場では開けず朝刊と手紙、二つを手に取り家の中へと戻った。  朝食を食べながら、先ほどの手紙の封を開ける。手紙の中身は真っ白な便箋一枚で、 【今日、地下鉄に乗ってはいけない】 という一文だけが書かれていた。    その文章にも不可解であったが、なにより筆跡が私のそれと同一であるかのごとく酷似していた。まるで自分で書いたかのような字だったのだ。  最初に思ったのが、ストーカーの類であるということ。もしそうであるなら今すぐにでも焼き払いたい。しかし、それにしては文章が不可解だ。もしも、ストーカーの類であるなら、卑猥な言葉だとかそういう文面になると思うのだ。  いろいろ考えているうちに私は時間を忘れていた。ハッとして時計に目をやると、家を出る時間ギリギリをお知らせしていた。私は朝食の後片付けもそのままに急いで準備をし、家を飛び出し、小走りで駅まで向かった。電車に間に合うかという時間との格闘で私は駅に着くころには手紙のことなどすっかり忘れて地下鉄に乗り込んだ。  そして地下鉄に乗り、息が整ったころ手紙のことを思い出した。私は、手紙の忠告を無視し地下鉄に乗っている。だが、地下鉄に乗らなければ会社へ行くことはできない。乗るしかないのだ。それにだ。乗ってから随分、時間がたっているが特に異常はない。いつも通りの満員電車だ。やはり、なにかのいたずらなのだろうかと、考えていると、臀部のあたりに妙な感覚を覚えた。  この感覚は、明らかに人間の手。これは、ち、痴漢!?私の脳裏にはあの文章がよぎった。 【今日、地下鉄に乗ってはいけない】  あれは、痴漢の被害にあうからということだったのか!?それならそう書いておくれよ、手紙の主よ!    
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