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絋が、もうこの船は出航している。と告げた。
「は?」
「本当に、気付いてなかったのか?」
美音は、確かに絋に連れられて船に乗り込んだが、それはお互いの愛の確認の為であり、美音だって部屋は与えられているが、流石に人が大勢居る他人の屋敷で致すのは恥ずかしく、しかも、いつもの
「来い」
という命令口調ではなく、
「一緒に来て、くれるのだろう?」
などといつもはキリッとした眉をハの字にした不安たっぷりの疑問系で、声だって弱々しくて、釣られるように手を差し出せば、本当に大切な宝物を手に入れた少年の笑顔で、壊れ物を抱き締めるように、所謂姫抱っこで抱えられて船まで持って来られた。
ホープにちょっと絋が来たから行って来ると連絡するなどと、社会人として相談連絡は大事だが、迎えに来た絋を前にして瑣末なことは、頭から抜け落ちていた。
抜け落ちてなくても、後で絋が来たから絋の船に泊まったと言えば良いか、くらいに思うだろう。
まさか、出航するなんて思ってもいなかったのだから。
「…全然揺れてなかったぜ…」
「最高の設備が整った船だからな」
何より、絋との行為に没頭していたから、多少揺れたとしても全くわからないだろうが。
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