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女将が下がると、慶松が足を崩した。
「良かった。氷花が笑顔になってくれて」
「野菜がおいしいからね」
慶松に気を使わせてしまったか。人が居ない間に、先ほどの画像は消しておく。今の部屋と料理に切り替えておいた。
「氷花、最近、仕事の話はしないけど、順調なの?」
「まあ、どうにかやっているよ。やっぱり、柴田は凄いよ」
慶松も会社員であったならば、やり手であった気がする。優しいが、行動力があって押しが強い。
「この後の予約というのも、まさか、しているの?」
慶松が首を振っていた。
「家でのんびりというのも、いいよね」
そういうのもいい。慶松は、特注の端末を自分で設計している。特に、遠見と里見は、お得意様になっていた。里見は、端末を自分でも設計していて、慶松に依頼している。俺は、機械に囲まれているのも、結構好きであった。
「留学もしてみたかったよね……」
最先端の工学も見たい。
「氷花……自分の頭の中だけで、話しをしないでね。話についていけないよ。それに氷花、留学していたでしょう」
留学はしていない。バイトで金を貯めると、海外を彷徨っていた事はある。一人旅は、絶対に止めた方がいいと、出会う人全てに言われていた。
「留学はしていないよ」
そこで、デザートが運ばれてきていた。デザートは和風で、小豆のトッピングのある、和菓子であった。
「ラーメン屋のデザートは層が薄いよね」
「長居する場所ではないからね……」
ラーメンは伸びるので、ゆっくり食べてはいられない。そのせいか、椅子や机が簡易的なものが多い。
「鈴木は二号店を出すのかな?」
「二号ではなく、自分の店を出すと思うよ」
デザートを食べると、かなり甘かった。
「さてと、帰るか……」
店を出ようとすると、俺達を間違って案内してしまった女性が泣いているのが見えた。話している内容を聞くと、新人であった。業者は、からかって客のふりをして入って来たようだ。予約をしていると聞き、部屋に通してしまったらしい。
何故、名前を確認しなかったのかと、先輩従業員に諭されていた。名乗らない客も多く、常連客のように入ってくる。新人では、確認できなかったのかもしれない。
車に乗り込むと、家に向かって走り出す。
「俺、浅見さんの兄、信哉さんを実家に連れて行くつもり。実家にも連絡しておいたよ」
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