『0(ZERO)SYSTEM』

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COLLECTIONS4 『0(ZERO)SYSTEM』 第一章 欠けた月  K商事、社長付企画課、この社長付という言葉には、いいイメージがない。社長のお気に入りがいる部署のようで、ハーレムのようなものを連想してしまう。  しかし、実体も真実半分、噂半分といった所であった。  企画課室長川越の、秘書のような役目をしていた淡谷が、異動届けを出し総務へ移ってしまった。そして、新しく秘書課より浅見 静香(あさみ しずか)がやってきた。 「氷花さん、ここにお茶を置かないでください」  浅見は、潔癖症で秘書課を追い出されていた。  まず浅見は、身の回りを朝一番で全て消毒し立ち入らせない。初日に俺が、迂闊にも足を踏み入れ、明確に線引きされてしまった。  今度は、俺の机の上にお茶があるのが許せないという。 「……机の上は、俺の陣地ではないの?」 「視界に入ります!」  視界に入るのもダメなのか。俺は仕方なく、お茶を片付けた。  俺、氷花 護浩(しが まひろ)は田舎の営業をしていたが、この企画課に異動されてしまった。田舎での、毎日、新鮮な野菜を食べられた幸せな日々は終わり、都会での勤務になっている。  浅見とは同じ年であるが、俺は早生まれであるので、学年は俺が上になる。でも浅見には、先輩を敬うという気持ちが、微塵もないように見える。しかし、完璧に川越の補佐をしていた。そして、浅見の視界には、温科が入っていなかった。例え浅見の隣の席であっても、温科はスルーしている。  温科は浅見のスルーを全く気にせず、淡谷との新居に心躍らせていた。もうすぐ、温科は淡谷と結婚するのだそうだ。 「営業一課に行ってきます」  俺は企画書を持って、営業一課に向かった。営業一課は、主に部品を扱う部署で、電気部品などを扱っていた。営業では花形の方で、大口顧客も多い。 「氷花、今度は何の企画をしてきたの」  営業一課に行くと、柴田が声を掛けてきた。柴田は、昼飯仲間で、たまに一緒に飲みにも行く。柴田は、B級グルメに詳しく、隠れた名店にも詳しかった。 「浅見さんに、俺、ばい菌みたいに扱われているのよ。居心地が悪いので、半ば逃げて来た」  営業一課の隅には、ミーティング用のテーブルがあった。俺は、そのテーブルに資料を広げる。 「浅見さん、可愛いでしょう」
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