案山子

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案山子

 僕は今、のどかな田園風景の中、車を走らせている。 どこまで行っても畑と田んぼだ。これから、しばらく走りあの山の中の集落まで約一時間。  先月僕は仕事を辞めた。僕には都会の暮らしは向いていなかった。 職場でも人間関係がうまく行かないうえ、自宅アパートの周りはしょっちゅう喧嘩や事件が起き、僕は家に居ても喧騒の中暮らしていて、落ち着かなかったのだ。    元々僕は田舎者で、今車で走っているこういうのどかな町で育ったのだ。それなら実家に帰ればいいという話だが、あいにく両親は他界しており、僕には兄弟がいなかったので、実家を管理するのは難しく、処分したのだ。今となってはこんなに早く退社するのであれば、処分せずにいればよかったと後悔している。僕にはその時の遺産があるので、当面は暮らしには不自由しない。だから、僕は思い切って農業に転職することに決めたのだ。     
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