第18章 欲しくなければスルーして

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在宅してる時は彼が美味しいご飯を作って待っててくれる。そして二人で他愛ない話をしながら夕食を済ませ、片付けものが終わったらしばしリビングで寛ぐ。 いつもって訳じゃないけど、時間に余裕がある時など彼が静かな声をかけてくる。 「…おいで、夜里」 わたしは素直に従って彼の膝の上に自分から乗る。加賀谷さんは何するって訳でもなく、わたしをしっかり抱きかかえてしばらく体温を味わうようにじっとしてる。わたしは彼に伝わらないよう気をつけながら、そっと身を捩らせ甘い息をつく。 …だって、わたしの身体は何も知らない子どもじゃないし。況や猫でもない。男の人の手がわたしの身体に何するもんなのか、ちゃんと知ってるもん。 だからと言って普通の男の人がするようなことをわたしにして、とも言えないし。何より彼にいやらしい女だって思われたくない。いやそれ自体はもう隠しようもなく知り尽くされてる訳だけど。 わたしの欲情が彼に向かうとは未だに思われてない筈。それがばれて、そうか欲しいなら仕方ないな、ってやむなく相手をしてくれたりしたら最悪。大方クラブを辞めたから欲求不満が溜まってるんだって思われるに違いない。だったら処理してやらなきゃ、なんて。 わたしが加賀谷さんに対して抱いてるのはそんなんじゃない。誰でもいい、というか、むしろ顔がない方が都合がいい人格のない身体だけの男たちとしてなんかじゃない。加賀谷さんの手と身体。温かい体温。その息遣いと目線が欲しい。 わたしの存在を深く感じてほしい。面倒を見なきゃいけない可哀想な捨て猫なんかじゃなくて。 彼になくてはならないものになりたい。結婚するしないも今はまだどうでもいい。わたしがいないと駄目、わたしにここにいてほしいって思わせたいの。 そのためにはどうしたらいいんだろう。彼にじっと抱きしめられながら密かに頭を悩ませる。やっぱり思い切って誘惑して寝た方がいいのか?何もないよりは距離が縮まる気はする、かも。それで彼を骨抜きにする?今までの経験を全部活かして自分の全てを投げ打って。覚えたこと駆使して彼がわたし無しじゃいられないよう溺れさせて…。 いや無理だな。わたしは表に出さず心の中でだけ首を横に振った。第一自慢じゃないけどテクニックなんかひとつも身についてない。常に受け身でされればされるほど悦ぶだけ。プロの対応はするなって口酸っぱくして言われ続けてたから。
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