グレープフルーツ

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君はグレープフルーツが大好きだ。 「女の子みたいだね」 と笑っていたのは恋人だった頃の話。 私がこっそり冷蔵庫にグレープフルーツを入れておくと君は見つけるたびに「やった!」と喜ぶ。 そのあと、決まって「半分こしよう」と言うのだ。 それを聞きたくて私は、スーパーに行くたびにグレープフルーツを一個だけ買うのだ。 君は「たまには二個買ってくればいいじゃん」と言うけれど、そうはいかない。 私の知り合いの夫婦は、お金のないとき、コンビニで焼き芋を一本だけ買って半分こにしていたそうだ。 私は、その話がちょっと羨ましいのだ。 本当に仲がいいんだとやっかむのだ。 君は、今日も包丁でグレープフルーツを半分に割る。 その半分をやはり私に渡す。 「半分こって、なんか幸せの象徴だよね」 私は、そっとそう言ってみた。 「一個丸ごとのほうが贅沢じゃん」 そんなことを言ってしまうあなたはガサツだけど、グレープフルーツだけはちゃんと私に半分くれる。 君が必ず半分を私にくれるのは、グレープフルーツだけ。 それを知ってグレープフルーツに幸せを感じる私は、お安いだろうか。 違うよね。だって君の大好きなものをいつも冷蔵庫に忍ばせる私は出来た嫁のはずだ。 君が、そんなことを言ってくれないから私はグレープフルーツで幸せを噛み締めるのだ。 甘くて、酸っぱくて、ちょっと苦いグレープフルーツ。 私の幸せの味は、そんな味だ。 了
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