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それはある嵐の日。まだ日も落ちきっていない時間だというのにあたりは薄暗く、大粒の雨が切れ間のない雲から風に乗って強く窓を叩きつけていた。 ここは森に囲まれた、ただ一件の小屋。 そこへ突然少女が現れた。住人である青年が扉を開けると、とても信じがたい光景を目にした。年端もいかない華奢な少女がたった一人で、泥と雨に汚れた白い布一枚を体に巻きつけて現れた。 そんな彼女を見かねて青年は中に招き入れる。心優しい青年は、汚れた顔をぬぐってやり、濡れて張り付いた髪を真綿のタオルで拭いてやり、着るものと温かいココアを与えてやった。これまで一言も発さない彼女を不審がることもなく、青年は甲斐甲斐しく世話を焼いた。 彼女はそんな青年の姿に、ふと肩の力を抜いた。 「わたしは……アナト。…………追われてるの」 青年はやっと口を聞いた彼女に安堵して微笑んだ。「誰に?」そう問うこともなく、彼はその純粋に見つめる彼女の漆黒の瞳を覗き込んで、優しい声音で伝えた。 「安心していい。ここにいれば守ってあげられるから」 青年の優しい言葉と微笑みに、アナトはおずおずと青年の手を握る。
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