私と彼女とあの女

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そうすれば疲労と緊張感から解放されたおかげか泥濘にハマっていくような、心地よい眠気が襲ってきた。 寝入ってから暫く経ったのだろうか、じんわりと上がった体温を感じながらもう少しだけ横になっていようと仰向けに寝返りをする。すると、妙なものが視界に映った。 カーテンと天井の間の網目から、真っ黒い靄が見える。少し光沢があるせいか、くろい風船が浮かんでいるようだ。 あれは何だろうか。 寝起きで殆ど機能していない頭ではそれが何なのか、考えることも出来ず固まる。しかしそれが私の方に振り向いたお陰でようやくそれが、何なのか理解した。 黒いそれは女の顔だった。黒くて恐らく長そうな髪を垂らした女は、おかめの様に細まっていた目を徐々に開いて私をじーっと見つめる。周りが暗いせいもあり、個性のない白いお面が中に浮いている様にも見える。 これは竹村さんが言っていたやつだ 冷静にそんなことを思っていると、不意に耳元からかちかちと音がし始めた。体が自由に動かず、視線だけで音のする方を見るが何も見えない。しかし音は確実に私の耳元でなっている。 どこかで聞いたことのある音だと懸命に頭を振り絞って、ようやくなんの音か分かった時に全身に氷嚢を押し当てられたように悪寒が走った。 これは、箸を打ち合わせて鳴らしている音だ。     
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