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「琴美も峰岸家の守護下に入っていることに間違いはないから、その身が危険にさらされてるって気がつけば、僕だって一応助けるけどさ……これまでのように、率先してってわけにはいかないよね」
一歩一歩前に進んでいく卓人の体から、ゆらりと灰色の光が現れ出る。
「だって、僕が誰よりもまず気を配らないといけないのは、琴美じゃない。紗矢ちゃんだよ」
琴美は声を引きつらせ、後ろへと下がっていく。
「琴美程度の警護なら、伊月で充分」
詰め寄られていた琴美が足をもつれさせ、その場に尻餅をついた。卓人は身を屈めて、彼女に告げる。
「紗矢ちゃんに余計なことしようとしたら、許さないからね。よく覚えておいて……君じゃあどう頑張ったって、紗矢ちゃんの代わりになんてなれないよ」
「峰岸君っ!」
紗矢がたまらず名を叫べば、卓人が動きを止めた。嫌な静けさが部屋の中に広まっていく。
琴美は瞳に涙をためて立ち上がると、唇を震わせながら部屋を出て行った。
再び大きな音を立て扉が閉まると、卓人は紗矢に踵を返し、ニッコリと笑う。
そこにいたのは、いつもの峰岸卓人だった。
「いけない! 料理さめちゃうね」
卓人は椅子に戻ると、早速フォークとナイフを手に持った。
もう食欲は消えかけていた。紗矢はそれ以上言葉を発することもせず、静かに椅子へと腰掛けたのだった。
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