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百周年を迎えた伝統ある小学校で、ある奇妙な噂が囁かれていた。「この学校には2つ理科室がある」というもの。そこは「第2理科室」と呼ばれ、ふだん使う理科室と違い、特別な授業のときにだけ、厳重な環視のもとに使用されるらしい。
理科が、特に実験が大好きな小4の日生子(ひなこ)は、それがどんなふうに特別なのか知りたくてたまらなかった。
(どんなすごい実験するのかな? 酸素とかじゃなくて、なんか元素作るのかな)
核物理学実験施設クラスの巨大な期待を抱いて、日生子はその噂を自分の席で反芻していた。席は窓際にあり、グラウンドが見下ろせる。向かい側にある、第2理科室があるらしい、新校舎も。いくら眺めても校舎のどこにあるのか検討がつかず、日生子の第2理科室への夢は広がるばかりだ。
だがその噂を怪談として受けとる者も多かった。隣りの席の男子は、おどけながらも怯えた口調で仲間と話していたのを聞いている。それは数週間前の放課後のこと。
『あそこさ、月に一回だけ選ばれた生徒が掃除に行かされるんだってさ』
『鍵2つついてんだろ?1つじゃ開かなくて、職員室の箱にしまってあるって。先生でも勝手に入っちゃダメで』
『こえぇっ!』
掃除をしながら、男子たちはそんな噂で盛り上がり、ホウキを軽く振り回す。半ばサボりだったのだろうが、女子もそれを止めず、皆で聞き耳をたてていた。だからご期待にこたえ、少年たちは調子をこく。
『そいでさ、あそこにガイコツの標本あるんだって。ホンモノの、人間の』
『マジ? めっちゃこえ!』
『3本の、指の標本もあるって』
『こえーっ!』
女子たちも一斉に
声なき悲鳴をあげ、なぜかタイミングよくやってきた教師によってその話は中断される。
あまりに露骨に怪談すぎて、日生子はうんざりしていたから、それはありがたかった。
(そんなことくらいで、そこまで厳重にするー?)
実際、本物の死体から作られたガイコツだとしたら、さしもの日生子も怖くないはずはない。けれど彼女にとって、好奇心のほうが勝るのだ。とにかく、行ってみたくてたまらないのは変わらない。
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