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大人の影を感じてそちらを見ると、そこにある。全国の小学生たちの、理科室への恐怖の源・骨格標本が。
「きれいな白ねぇ」
背後からの声に日生子は飛び上がった。声の主は、あの泣きじゃくって逃げ回ったロッカー少女。彼女がもっとも恐怖したはずのそれへ、「きれい」と声をかけるとは。
日生子が歯を鳴らして、思わず本音を漏らす。
「ガイコツがきれいなわけ、ないでしょっ!」
「きれいでしょ?真っ白で、肉とかついてないし」
とくとくと語るロッカー少女が不気味すぎ、日生子は無視して机の間をモップで拭く。拭きまくる。そうしていないと、ぶざまに泣いてしまうから。
しばらく拭きまくることに集中していたが、前に立ちはだかられて顔をあげてしまった。奇妙な笑顔のロッカー少女が、無言で低い標本棚を指さす。さされた先には、小さな木枠のケースがある。
固まる日生子の脇をすりぬけ、ロッカー少女がそのケースを持ってきて示す。
「ほら、指の標本」
喘息めいた息だけの悲鳴が、日生子の喉からこぼれた。硝子のふたの中。ベルベットの布の上に、子供のものらしい指が3本、行儀よく並べられている。
唄うように、ロッカー少女が語る。
「きっとわたしたちと同じ年の子よ。小さくてかわいい……」
日生子は、遠い呼び声にくすぐられて、闇に墜ちた。
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