【プロローグ】ある日それは突然に

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【プロローグ】ある日それは突然に

視界がブレてふわりと、体が宙に浮く感覚がした。 それはあまりに突然のことで、俺は自分の身に何が起きたかさえ分からなかった。 瞬間、辺りは静寂に包まれてすべてがスローモーションに見える。 俺の隣に座っていた学生服の男子生徒がくるりと一回転して、正面の窓を突き破っていった。 まるで無重力の中にいるように電車の中のありとあらゆる人と物が舞う。 手押し車を持った老婆が。携帯ゲームをしていた子供が。吊革に掴まりウトウトしていたサラリーマンが。 そのすべてが、俺の目の前を上下左右に飛び交った。 不意に、視界がぐるりと回る。 若い女の悲鳴が短く響いたのを皮切りに、俺が見ている世界は音を取り戻した。静寂は二度とは戻らない。 「事故だ!!!!」 誰かがそう言った。そして続けて 「掴まれ!!!!」 何かに掴まれ。そう言ったのだと理解するよりも早く、俺の体は轟音と共に吹き飛ばされた。
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