discord

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今日も今日とて、残業だ。 もちろん、残業をするということは、その時間に応じた賃金が支払われてしかるべしだと思うのだけれど、いかんせんうちの会社は古い会社だから、金が出る出ない云々の話よりも「長く働けば働くほど偉い」という風潮が色濃く残っている。 だからこそ、タイムカードもないし、時間外労働は自分で単票を切って提出するのだ。もはや、これ以上は言うまでもないだろうが、出した単票がそのまま受け入れられた試しなど、ただの一度もない。 既に誰もいなくなったフロアの中に、俺―氷室貴教(ひむろたかのり)―は「うあー」と大きな伸びをした。フロアの電気は、俺のデスクがある場所だけが点いていて、それ以外の場所は真っ暗になっている。 俺にとってはこれが「いつもの光景」だから、昨日みたいに、隣の部署の電気がいつまでも点いていたことの方が、イレギュラーな事態であると言っていい。頭上で、すっかり色が黄ばんだ蛍光灯が、ジー、という音を立てていた。
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