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ぼさ髪スウェットの少女はひどい猫背で、化粧っ気もなかった。
「おいセンセー、指定された箇所のベタ、」
「あたし、天才かもしんない」
聞こえたつぶやきにまたかと息をつく。何か思いつくたびにこの小娘は自らを天才かと錯覚する。
「はいはい、かもしれんかもしれん」
天才だと信じられるならそのほうがよい。言葉の魔力が君の原動力に変わることだ。俺は自らを天才だとは思えなかった、ゆえにここでアシスタントもどきをしている。
センセーは二つ並んだローテーブルの向かいに座り、作業に戻った。
インクを含んだGペンの先が紙上に弧を描く。それは登場人物の存在を叫ぶ輪郭線であり、彼女の空想を現実に映すプロジェクターの光である。
俺は天帝賞(てんていしょう)の賞金に釣られてマンガを始めたような男であって、若き日からマンガ家を志していたセンセーと机を並べているのもおこがましいのかもしれない。
「明日、か」
ふと、目に入ったカレンダーには丸印がついている。
「あたしを祝って、褒め称える準備を忘れないように」
「はいはい」
ブラックは飲めないからとカフェオレに口をつける。
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