全てを守るための決断

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 お互いのグラスが空になってから、Barを後にした。  車に乗り込み……  少しの静寂。  時折感じる悠子さんの視線にチラッと視線を向けて「どうかしましたか?」と、尋ねた。 「ッ!!いえ……」    慌てた声音。 「何ですか?  遠慮せずに言いたいことは言ってください。」    運転しながらじゃ、悠子さんの表情は伺えない。  暗闇の中でオーディオのうっすらとした光しかない。  今、どんな顔をしていて  何を考えているのか…… 「俺に我慢はいらない。」 「いえッ!本当に……  あの……ただ……横顔を……見ていたかった……だけですわ……」  最後の方は殆ど聞き取れないくらい小さな声音だった。  悠子さんが俯いたのを感じる。  その悠子さんの言葉が……  俺をどれだけ浮かれ野郎にしているかわかっているんだろうか。  トクントクンとときめきを運ぶ。  順調に青信号だった交差点が赤になる。  ゆっくりと車を止める。  俯いたままの悠子さんに視線を向けた。  ウエーブのかかった柔らかな髪が揺れて横顔を隠す。  その髪にそっと触れると、悠子さんはゆっくりと顔を上げた。  上目遣いの潤んだ瞳が色っぽくて……  運転中であることすら忘れてしまう。  後頭部に手を回して顔を寄せた。  お互いの顔が近づくと……  悠子さんは何の抵抗も見せずにゆっくりと瞳を閉じた。  唇から感じる甘いアルコール。  甘い甘い  薔薇の密の味……
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