全てを守るための決断

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 確かに感じた柔らかい唇と甘いアルコール。  唇を離して……  悠子さんはゆっくりと瞳を開いた。  その瞳が本当に色っぽくてドキンと大きく心臓が跳ねた。  悠子さんに小さく微笑んで、後頭部から柔らかい髪に手を沿わせ、流れるように横髪に触れて……  手を離した。  前を向くといつの間にか赤から青に信号が変わっていた。  バックミラーで後部の車を確認したが止まっている車はいなかった。  ホッと安堵して車を発進させた。 「……煌人さん……」  悠子さんの艶めかしい声音が俺を呼ぶ。 「何ですか?」  前を向いたまま返事を返す。 「…………」  俺を呼んだはずの悠子さんの言葉がその後出てこない。 「……悠子さん?」    チラッと視線を向ける。  悠子さんの表情が何かを言いたげで。  苦しそうに顔を横に振った。 「いいえ。何でもありませんわ。」 「ほらまた!」  悠子さんは何度も俺に何かを我慢する。 「我慢は要らない。  俺に出来ることならなんでもします。  だから本当に遠慮は要らない。  言ってください。」  ハンドルを握る手に力が入る。  この人からどうやったら我慢が消えるのか……  俺の課題。 「あの……だって……本当にこれは……悠子の我儘なのですわ。  それが叶わないこともわかっていますし……」  運転しながら悠子さんの話を片手間に聞くことはもう無理だ。  
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