ランチボックス

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 平日昼間の児童館は、未就園児のはしゃぐ声と泣き声、我が子を呼ぶ母親たちの声で溢れかえっている。都内の高級住宅街に造られたこの児童館も例外ではない。 「今日もおしゃれなお弁当ね」  リカの言葉に、北欧ブランドのランチボックスを手にしたミズホは眉を下げ「そんなことないわよ」と謙遜する。横から覗き込み相槌を打つのはサワコ。三人は同い年の子を持ついわゆるママ友だ。  日光がたっぷりと注ぐランチスペースから子どもたちの様子を見やると、知育に良いとされる外国製のおもちゃで夢中になって遊ぶ三人の可愛らしい笑顔が見えた。 「そのサラダ素敵!」  サワコが指差すのは、薄く切ったきゅうりをバラの花のように立体的に盛り、その中心にブロッコリーとカニカマを詰めた華やかなサラダ。 「酢豚も美味しそう。ほんと、ミズホさんはお料理上手よね。あたしなんて昨日の残り物とデパ地下のお総菜よ」 「あたしも!」 「お料理って手間も時間もかかるし、育児中はなかなかねえ」 「その点、ミズホさんは本当にすごいわ」  ランチタイムごとに繰り返される賛辞に、ミズホは気分が高揚した。 「でも、サワコさんは先生ができるくらいフラワーアレンジメントが上手だし、リカさんだってサキちゃんのお洋服作ったりしているじゃない。あたしはたまたまお料理が好きだっただけよ」 「おやつも手作り?」 「うん、最近はオーガニックに凝ってて」 「すごいなあ。ね、そのサラダの作り方教えて」  サワコの頼みに快く応じ、ミズホは丁寧にレシピを伝授し始めた。
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