ランチボックス

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 子どもたちはランチを済ませると眠いとぐずり出す。そのぐずりが解散の合図。それぞれの子どもをベビーカーに乗せ、児童館の前で「じゃあ、また明日」と言って別れる。いつものパターン。  木漏れ日が美しい昼下がりの歩道をゆっくり歩きながら、ミズホはひとり安堵の息を吐いた。 息子のユウはベビーカーに体を預けてぐっすり眠っている。 ――良かった、今日も無事に終わった。  これから地下鉄に乗って銀座のデパートに行かなくてはならない。用事が済むまでユウが起きないことを祈りつつ、ミズホは改札をくぐった。  昨日は麻布十番の輸入食材専門店、一昨日は世田谷の高級スーパー、その前は青山の芸能人御用達の……。毎日のように弁当持参で児童館に集合することが暗黙のルールとなっている今、日々のメニューはミズホにとって頭の痛い問題だった。  ミズホ、リカ、サワコ。年齢が近く実家も裕福。お嬢様学校を卒業し経済的に豊かな男性と結婚し、今は都内の高級住宅街に一軒家を構えるセレブ妻。ただ違うのは、リカやサワコのような特技がミズホには何もない点で、それがミズホの心にトゲのように突き刺さり、事あるごとにちくちくと疼く。 
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