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「どんだけお人よしだよ、お前。さっき家に着いたらさあ、嫁さんに、神谷くんが来るから迎えに行ってあげてって、一歩も中に入ることなく追い返されたよ。会社で渡してもらって良かったのに。二、三日、スマホないくらい、俺かまわねえもん」
せっかく届けにきた俺に向かって、この人は文句を言っているのか? どういう神経しているんだ。
「水口課長、お言葉ですけど、明日からゴールデンウィークでわが社は九連休です」
え、と課長の表情が固まった。すっかり忘れていた、そんな顔だ。
「それに、他人に預けたままで平気なんですか? 奥さん以外の女性から電話が来たりしても知りませんよ」
この人はぶっきらぼうだったり変なところでふざけたりとつかみどころがない人だけど、女性社員からはそこそこ人気がある上司なのだ。よほど女の扱いが上手いのだろうと思う。
「お、君も言うようになったねえ。そうだ、神谷くん、せっかくだから家に寄っていきなよ」
水口課長が、にっと笑った。
仕事だってできない人ではないんだ。10年以上も大きなプロジェクトに携わっている人だ。あの部長だって一目置いている。
だからこの人に恩を売ることで自分にもプラスに働く作用が何かあるはずだと考えた。
「けっこうです、もう帰りますよ。ご家族も迷惑でしょうし」
それでも、これ以上つきあう義理もない。
「いやいや、大丈夫。今、友達も来てるから。ちょうど良かった、一緒に飲もうよ」
「いえ、本当に、これで」
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