#01

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 なんだ、単に自分の家を自慢したかっただけか。なかなかって何が? 普通の家だろ、どう見ても。のこのこついてきて損した気分だ。 「本当に大丈夫なんですか? 奥さんに確認とったほうがいいんじゃないですか?」  鞄を奪い返せればこのままなんとか言いくるめて逃げ帰るのに。 「往生際が悪いなあ」  ただいまあ、と家に入っていってしまった。  玄関先には困ったような顔をした課長の奥さん。課長と同い年と聞いていたが、年齢よりずっと若く見えるうえにかなりの美人だ。アカぬけていて主婦という印象を受けない。まあ、水口課長自体も若いというか子供っぽいが。 「こんなところまでありがとうございます」  お礼を言われたけれど、あからさまに迷惑そうにしている。早く帰りたい。 「神谷くんも今日うちに泊まるから、よろしく」 「成瀬くんたちもいるのに、どこに泊まってもらうの?」 「大丈夫、こいつリビングのソファでも寝られるから」  嘘つけ、勝手に決めやがって。頼むから、帰らせてくれよ。このまま夫婦げんかになるんじゃないかとひやひやしていると。 「こんばんはー」 「こんばんはー」  小学生の兄妹だろうか、パジャマ姿でひょこっと顔を出してきた。 「息子の理玖(りく)と娘の湊(みなと)。今夜はこのお兄ちゃんが遊んでくれるって。良かったな、お前ら」     
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