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「不妊治療を続けているけれど、夫とではダメみたい。私の年齢じゃ、妊娠するのにも限界が近づいている。他に頼める人はいないの」
「ふざけるな、冗談じゃない。なんで、俺なんだ」
精子提供でもなんでも他に方法はあるだろう。金ならいくらだって持っているはずだ。
「神谷くんは信頼できる。外見だって好みだもの。優秀だし、家柄もいい。問題ない遺伝子よ」
真由子が身を乗り出してくる。顔を近づけて小さな声で言った。
「誰にも言わない。迷惑もかけないわ。夫も神谷くんに直接会ってお願いしたいと言っている」
まるでシナリオだ、俺が言っていた台詞そのものじゃないか。そんなことを考える人間が他にもいたなんて、笑ってしまう。健太郎の気持ちが、今なら、よく分かる。そんなこと頼まれて、分かりました、とは決してならない。
「成瀬さんは知ってたんだ、俺とのこと」
「ごめんね。私たち夫婦、普通じゃないの」
どこから、始まっていたんだ? あの日、あの夫婦に初めて会った時、年齢を聞かれた気がする。もう選別が始まっていたのか?
じゃあ、水口課長は? あの人が俺を家に誘ったんだ。まさか……。
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