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ハルトと目が合うと、ハルトは怯えたように肩をすくめて俺から視線を外した。どうやら俺は怖がられてるみたいである。仕方がなかった。話すのは昨日が初めてだったし、直哉みたいに優しいことは、あまりいってやれてない。かといって、子ども相手とはいえ、誰かの機嫌を取るようなコミュニケーション能力も俺は持ち合わせてはいなかった。黙って買ってきたおやつとジュースをテーブルに置いた。
カレーを作ると、何が困るって、何日間もカレーが続いてしまうことである。俺も直哉もそんなに大食いじゃないんだから、ルーを半分だけ使って作ればいい話なんだろうけど、ルーの箱の裏を見ながら一箱分の食材を用意してカットしてしまうから、毎回大量のカレーが出来上がるのである。キッチンでカレーの味見をしていると、向こうからハルトの声が聞こえてきた。
「ねえ、あの人がいつもご飯作ってるの?」
直哉が答える。
「うーん、いつもじゃないよ。ぼくが作ることの方が多いかな」
「ふーん、そうなんだ。さっき、あの人が洗濯物干してたよね。きぬがわさんは、あの人と一緒に住んでるの?」
「うんそうだよ。二人で一緒に暮らしてる」
「ドウセイしてるの?」
同棲の意味をわかっててそう訊いたのだろうか。俺は手を止めて、キッチンからリビングを覗き見して聞き耳を立てた。直哉は少し考えてから浅くうなずいた。
「うん、同棲みたいなものかな」
まずい。もし、ハルトが帰って母親にそのまま話してしまったら、母親は直哉のことをどう思うだろうか。俺は鍋の火を止めリビングへ行くと、二人の話に割り込んだ。
「いや、同棲とはちょっと違うかな。あのね、おにいちゃんたち、すごく仲良しなんだ。だから一緒に生活してるんだよ」
ハルトは不思議そうな顔で俺を一瞥すると、やっぱり直哉に訊ねた。
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