ハルト

19/66
82人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
 直哉の押しは強かった。母親が仕方なく「じゃあ」といいかけると、ハルトが小さく「やったー」といって直哉の腕を引っ張った。直哉が嬉しそうにハルトにいった。 「ちょっと待って、ハルトくん。きみは門限は何時かな?」  昨日の今日だ。直哉は眉を上げて少し皮肉っぽくいった。ハルトは空中を見つめて考えた。 「えっと、冬は五時半で、日が長くなったら六時半です」  直哉はハルトに手を引っ張られたまま、首をひねった。 「じゃあ、お母さん、六時半にお家に帰らせますから、ちょっとハルトくんお預かりしますね」  ハルトのお母さんは何度も何度も頭を下げて、「申し訳ございません、ありがとうございます。よろしくお願いします」を繰り返した。俺は笑顔を取り戻した恋人の姿を見て、とても満足していた。ハルトとの時間を許してくれてありがとう。お礼をいいたいのは俺の方だった。  直哉とハルトを先に帰らせて、俺はスーパーヤマサキへ買い物に寄った。じゃがいもと玉ねぎと鶏肉。カレーなら俺でもちゃちゃっと作れるようになった。人参はあんまり好きじゃないので入れない。ハルトがいるので、おやつをカゴにたくさん入れた。ついでにジュースも何本か買った。  家に帰ると、二人はリビングにある大きな本棚の前で座り込み、話に花を咲かせていた。直哉はやっぱり内股でペタンと座り、ハルトはお行儀よく正座をしていた。昨日と同じショルダーバッグを斜めがけにして、荷物も下ろさないまま話し込んでいる。なんだか男子二人でちまちましていているのが可愛らしかった。帰ってきた俺に気づいた直哉が、リビングのローテーブルを指差した。 「健人のキャップ届いてたよ!」  昨日フリマアプリでポチったやつ。もう届いたのか。早すぎてびっくりしてしまう。袋を破って、キャップを取り出した。ずっと欲しかった黒のデウス。目深にかぶって、直哉に見せた。 「どう?」 「カッコイイ!似合ってる!」 「ありがとう」
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!