番外編①:愛されたい、ただそれだけ

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「杉浦先生には充分よくしてもらってます。今、俺、幸せです。それは間違いないです」 「ん」  背中をぽんぽん、と叩かれ、再び布団に収まる。隣の恋人を自分の胸に抱き寄せ、眠る。愛されていること、愛していることを身体を重ねることで確かめたはずなのに、また新たに不安の芽が出てくる。『臆病者』という表現は本当にその通りだと思う。 「夢には見ないけど、俺も不安なことはあるよ」 「なんですか?」  良い意味であまり深く考えるキャラではないと思っていたので、それは意外だ。 「たっくんは俺じゃなくてもいいんだろうなってこと」 「え」 「たっくんのことを四六時中愛してくれる相手なら誰でもよくて、より自分を愛してくれる相手を選んでしまう」 「何言ってるんですか、そんなはずないでしょう」 「そうだといいけど」 「ありえません」  思わず、抱きしめる手に力を込める。ありえない。こんなに自分を愛してくれる杉浦光毅以外の人を選ぶなんて。 「好きな人には、幸せになってほしいからさ、俺」  そのときはなんでそんなことを言うのだろうと思った。本気で怒ろうか、とも思った。けれど、杉浦光毅の愛は相手を知り、許容し、さらに幸せを望むことだと知っていたはずだった。余命宣告された恋人と一生添い遂げようと決める覚悟のできるくらいの人間だ。  愛される喜びを求めてしまうことがいかに危ういか、このとき拓海はまだ気づいていなかった。
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