壁の穴

震災直後

　地鳴りのせいか、緊急地震警報が聞こえなかったあの日の夕方。倒れた本棚を直すため、必死に片付けをした。本棚は南側を向けて置かれていて、南北揺れに当然ながら耐えられなかった。
　南側の壁に頭を突っ込んだ形のそれを、床にぶちまけられた本やファイルを足下から取り除き、なんとか起こした。起こしてみると、案の定、倒れかかった壁には穴が開いている。たてに10cmほどの穴は、本棚の角がめりこんだ結果。合板の壁には、ロココ朝の花飾りを模した模様が描かれていた。その薔薇をデザイン化した部分が、無惨に合板のささくれがたっている。
　私は無意識に嘆息し、そのささくれを抑えるように撫でた。撫でて戻せるわけもないが。