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しばらく後
ささくれが憐れであるし、何より私自身が苛立つから、壁の穴はコートをかけて見えなくした。それで何が変わることもないが、見えないだけまだ心理的に楽だ。さらに運の良いことに、壁の穴は外壁までは貫通していない。だから寒さをしのぐ点でも防犯上も、あまり問題はない。本当はおおありだが、それにかまけていられるほど、震災後の民間人は暇ではない。
篤さがまとわりつく季節となり、さすがにウールのコートは見ているだけでも辛くなった。私はガムテープを準備し、いよいよ再び、その穴と対面することにした。覚悟を決め、無造作にコートをハンガーごと壁のフックからはずす。私は確認しようと、穴が開いている辺りを見やる。
しかし、穴は無かった。
ささくれがたっていた辺りはたいら。綺麗な薔薇模様が、こちらを不思議そうに見上げる感覚すらある。
あったはずの穴は最初から無かったように、消え失せていた。私はわけがわからず、けれど何も困ることはないので、壁の穴があった辺りを撫でた。
なにごともなかったように、壁の浮き出し模様が手になじむ。
さらに数年経て、読んだ漫画に現実を改変する能力者のキャラがあり、なぜか納得させられた。量子的に数多存在する宇宙のひとつから、壁の壊れていない世界が何かのついでに偶然召喚されたのだと、勝手に思いこむことにした。
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