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その人のイメージは、今でも「暖かい窓辺の風」だ。
良く晴れたある日、その施設に一人の訪問者がやって来た。その人は、ぼくに会うために来たのだと言う。
日差しはカーテンを薄橙に透かせ、風がそれをふんわりと膨らませていた。
夢のような午後。
「こんにちは、れなちゃん」
その人はそう言うと、少しも気負いの感じられない、とても自然な笑みを浮かべた。
笑う事が多いのだろう、口元や目尻の皺。
ぼくはその、飾り気の無い表情に目を引かれた。
「たかはし、とうこです」
彼女の声はとても穏やか。
そして、ゆっくりと、その一言ひとことは空気に漂う。
目まぐるしく流れる世界で、いつも溺れそうになっていたぼくは、あぶくみたいなその声に、おや、と思った。
「れなちゃん、よろしくね」
「・・・」
何と言って良いのか分からない。
いつも周囲の声は、ぼくの耳にはぼんやりとしか届いておらず、彼らもぼくに明確な返答を求めてはこなかった。
ぼくは押し黙ったまま、その場に立ち尽くしている。
それでもこの人は、ぼくににっこりと微笑みかけた。
これが、彼女から最初に学んだこと。
人は誰かと仲良くしたいとき、笑うんです。
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