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ゆーちゃんが何処にもいないのです 思い返せばゆーちゃんが階段を駆け上がるところは見ましたが、ゆーちゃんの乗っていた筈の自転車は僕が乗り捨てる様に置いた時にはありませんでした それどころか、僕らはずっとゆーちゃんだと思っていた少年の顔を見ていません そこそこ距離があったとはいえこちらを向いていた少年の顔はぼやけて判別出来ず、聞こえた声も今思えばゆーちゃんの声よりもずっと低かった様な気がします 何より、体の弱いゆーちゃんは夏風邪を引いて病院に数日入院していた筈なのです そのことに気づいたのは僕だけではなくみっちゃんとけんちゃんも同様で、2人は血の気の引いた表情で湯呑みを握り締めていました 僕はといえば、誰にしろ助けてくれたんだと能天気に考え、母が迎えに来てくれるまでの空いた時間にここの神様とは決まった訳でもないのに二拍二礼の後「助けていただきありがとうございました」と呟き一礼して、念の為にと御守りを貰って自転車を車に乗っけて母と共に帰りました 帰り際、「どういたしまして」という声が聞こえた気がしましたが、今となっては確かめようもありません 因みにゆーちゃんにその事を話せば「点滴射ってんのに自転車漕げるわけないやん」と笑われてしまいました あの女がなんだったのか、ゆーちゃんだと僕らが思った少年は誰だったのか、未だに分かりません お礼の品と貸していたいた甚平を返しに行った時に神主さんに聞いて見ましたが分からないと首を振られただけでした それでも僕は一つだけ気を付けていることがあります "貝殻公園には近付かない" 雨の日に貝殻公園であの女が出たという話は夏休みが明けても稀に学校で耳にしましたが2度とあんな目に会いたくないのであの日以来僕らは貝殻公園には近づいていませんし、これからもそうでしょう 雨が降っている日は特に
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