結局、男はオオカミでした。

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狭い正方形のテーブルで、田岡は俺の斜め横の位置に腰を下ろした。 チラチラ田岡の顔色を盗み見て、怒っているのかどうかを確かめる。 ところが目下の芸術作品が醸し出す匂いには簡単に誘われるから、手と口だけはしっかり動き出していた。 いちチラ見、いち食い。 そんな感じにパクパク食を進めた。 にしても、どうしていつも田岡が作る物ってのは…… 「んー、んまい」 んだろう。 市販の粉じゃんという指摘は尤もだけど。 決して侮ることナカレ。 バターの効かせ具合カンペキ。 絶妙なしっとりふっくら感サイコー。 俺好みの焦げ目も、シロップの量も、素人が田岡の域に達するのはなかなか難しい。 その基準は全て、俺。 山本峻検定なんてものを創設したら、田岡は第一号一級取得者だ。 愛だね。これぞまさしく。 「……ぅん?」 偉そうな妄想を楽しんでいるうち、田岡の様子確認はすっかり頭から抜け落ちていた。 だけど反対に田岡が俺を眺めていることに気付いて、モグモグと頬張った状態で顔を上げた。 「……なに? やっぱ怒ってる?」 「……カエル」 「は?」 「リス……いや、ハムスター……?」 真剣に何を悩んでるんだ田岡は。 ほっぺた?ほっぺたか? 膨らんでるからそれっぽいイキモノ連想してる? 最初がカエルってナゼ。 「……ハムスターだな」 結論が出ました。 俺はハムスターだそうです。  
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