第1章

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 数年前、その辺りで殺人事件があった事を思い出したのは、その日から数日経った後だった。調べてみたら、被害者は子供を絵画教室に迎えに行く道で拉致(らち)されたらしい。そして、殺され、バラバラにされ、あちこちに埋められた。そして犯人も、頭と胴体も、いまだ見つかってはいないようだ。  これは私の想像だけれど、女性がまさに殺され、切り刻まれている間に、子供は自力で帰るなり、他の家族に迎えに来てもらうなりしたのだろう。いつまで待っても母親がこないのだから、そうするしかない。そして、母親が行方不明になり、それどころでなくなったその子供はそのまま絵画教室を辞めてしまった。  一方、『子供を迎えにいかなければ』という心遺(こころのこ)りで幽霊となった母親は、子供がとっくに帰ったのも理解できず、絵画教室の玄関から出てくるのを待ち続けている。行き違いに気付かず、ずっとずっと……    ちなみに、赤い傘の女を見たというこの記憶は、残念ながら私の夢や勘違いということはなさそうだ。このあいだ、市だか県だかの公報に、小中学生を対象としたある絵画コンクールの結果が載っていた。町の景色を描写した大賞作品の隅に、ブラウンのスカートをはいた、胴体と頭のない、赤い傘をさした女性が描かれていたからだ。きっと、あの××絵画教室の、霊感がある誰かの作品だと思う。
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