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子供用の低い手すりをつかんでいた手が、急に柔らかい物に触れ、ぎょっとする。茶色いペンキが禿げた鉄の棒に、赤いリボンが結び付けられていた。何かのおまじないなのか、落とし物を拾った人が落し主に気付いて欲しくてくくったのか。そういえば、俺がここに通っていたときも、このリボンはここにあった気がする。まさか、数十年も外されずこのままだったなんて。
不思議なくらい少年には追い付かず、どんどん上へとむかっていく。このまま、屋上に着いてしまいそうだった。
(まずい)
自分でもその理由がわからないままそう思う。しばらくしてから、何がまずかったのか思い出した。
学校の七不思議の一つ、十三階段。
三階から屋上につづく十二段の階段。夕暮時、嘘をついた子、宿題を忘れた子、悪い事を一つでもした子がそれを登ると、なぜか一段増えて十三段になっているという。そしてそれは絞首台へと続く段の数。登り切った者は、その罪が裁かれる。
バカらしい。今何歳だ? そう思いながらも、つい数えてしまう。
一、二、三。
いくら日の長い夏とはいえ、夜が来ない事はありえない。眩しいほどだった日が沈み、少しずつ闇が濃くなっていく。また、血がポツンと落ちていた。
四、五、六。
どこか窓が開いていたのか、ぬるい風が吹き付けてきた。廊下に貼って飾ってあった物がはがれたのだろう。『夢』と書かれた習字の半紙が飛んできた。短冊に切った金色の折紙が右上に貼ってある。
そこにある名前を読み、思わず小さく悲鳴をあげた。思わずちぎりとる。自分の物だった。手が震え、紙がカサカサと鳴る。そう。これは確かに自分が書いた物だ。小五の時、この字で入賞した事はよく覚えている。でも、なぜ今これがここに? その隣に張られている作品。そこに書かれている名前は、覚えがある気がする。たしか、クラスメイトにそんな名前の奴がいたような……
七、八、九。
現実に鳴っているのか、記憶で鳴っているのか、ぱたぱたと、教室を走りまわる音。そして下敷きを振り回す音。
『返してよ~』
ふいに、過去の記憶がよみがえった。
よく緑色の縞のシャツを着ていた彼。もう名前も覚えていない。弱くて泣き虫で、イジメがいのある奴だった。
十。
『返してったら!』
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