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帰りの車の中は基本的に静かだ。
私はぼんやり景色を眺めるのが好きだし、聡の運転は丁寧で心地いい。
だからついつい口数が少なくなってしまう。
「智恵理、今日は元気ないな」
「え、そう?いつもこんな感じだと思うけど」
「疲れたのか?」
「ううん。でも、ちょっと眠くなってきた」
「家に着くまで寝ていていいよ」
「うん」
窓によりかかるようにして、また流れる街灯に目をやる。
なんて穏やかな時間だろう。
「ねぇ、聡」
「何?」
「……あ、いいや。ごめん」
「何だよ。言いかけて途中で止めるなよ」
「う~ん……」
「嫌な話?」
「たぶん」
「……そっか」
いつまで一緒にいられるの?
そう言いそうになった。
ただご馳走されて、ドライブして、家まで送ってもらって。
聡からしてもらうばかりで、私からは何もできない。私と一緒にいても聡には何のメリットもない。
いつか必ず別れが来る。
「……嫌だなぁ」
「何が?」
「お別れするの」
「もう少しドライブする?」
今日だけの話じゃないって。でも、気付かれなくて良かった。
「あははっ、そうだね。そうする」
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