始まりの雲

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始まりの雲

 宇都宮の中心街を抜けると、県道のすぐ脇から広がる田園風景。少しだけ秋めく稲穂が風にそよぐ。空には、大きな鱗雲。その鱗雲は、一線に集中し、太い帯状になっていた。それは、まるで龍が空一面に体をくねらせ、泳いでいるような姿をしている。  授業も今日は半日。学校帰りの立川愛弓は、寄り道もせず自転車を漕ぎ、どこまでも続く雲と同じ方向を走っている。  校門を出て数分、順調に走っていたが、前方の信号が赤になり自転車を止めた。 「おっ」  徐に空を見上げると、太陽の光が雲を透かし、空色とのコントラストがとても綺麗だった。ほどなくして、信号が青になり、再び自転車を漕ぎ始める。 「来週は三者面談かぁ・・・、はぁっ」  高校2年となると、そろそろ進路を考えなくてはならない。   解っていても、溜息しか出ない。将来の夢が有る訳でもなく、進路をどうすれば良いのかも解らない。これと言って際立つ特技もない。もう、暗中模索だ。進路という迷路の中で迷っているみたいに右往左往としている。そんな頭のモヤモヤを吹き飛ばすように愛弓は、力の限り自転車を漕ぐ。
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