弱点の話

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物心ついた頃から両親は働いていて、俺たちは保育園へ早々に入園した。 俺も姉ちゃんも給食で出される牛乳が飲めなかった。そのことで「牛乳飲めない子は遊んであげなーい」と意地悪をされていた。俺はそれが辛くて、哀しくて、姉ちゃんに「牛乳を飲む練習をしよう」と縋り付いたけれど、姉ちゃんは「嫌だ」と俺をはねのけた。そして結局俺は爺ちゃんに泣きついて、毎夜毎夜コップ1杯ずつ牛乳を飲んだ。どのくらい嫌だったかというと、円形脱毛症が出来るくらい嫌だった。 そうしてやっと牛乳を飲めるようになった俺とは反対に、姉ちゃんはいつまでも牛乳が飲めなかった。 一度、砂場で「あかりちゃん、牛乳飲めないから遊んであげなーい」と言われている姉ちゃんを見たことがある。まるで自分が言われたような気がした。俺が幼いながら一人で「どうにかしないと」と焦っていたのに対して、姉ちゃんはいつも通り、とりたてて顔色も変えずにこう言い放った。 「別に、頼んで無いから。」 これは齢5歳の少女の返答にしては強すぎた。 それから、姉ちゃんを遊ぼうと誘う女の子はいなかった。 小学校に上がっても、俺と姉ちゃんはいじめられっ子だった。 ある日、帰ろうと下駄箱を覗くと姉ちゃんの靴が無かった。やっぱり両親は働いていたから、俺はあの時も姉ちゃんにくっついていた。だから姉ちゃんがそうして意地悪をされる場面をよく目の当たりにした。 けれどやっぱり姉ちゃんは、どんな事にも顔色一つ変えなかった。 靴を隠したと思しき首謀者の靴をぶんどって、目の前を流れる川に投げ捨てた。 いつだって姉ちゃんはこうだ。 姉ちゃんはとにかく強かった。 俺はいつも「泣くな」と言われていた。 けれど、姉ちゃんは別に俺に対して冷たいわけじゃない。 俺が同級生と、その兄に意地悪をされていた時、姉ちゃんは後ろから同級生を田植えの準備が整ったぬかるんだ田んぼに突き落とし、兄のズボンを思い切り下げて下半身をすっぽんぽんにしてくれた。 姉ちゃんはいつだってこうなのだ。
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