てくるの怪

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てくるの怪

 『いる』のだ、そうだ。  母方の実家は、東京から新幹線で約二時間の、北関東の山奥にある。名前こそ『町』とついているが、ほんの数年前までは『村』だった。移動には車が不可欠で、そのくせ信号は殆どなく、畑には猪や猿や熊が出る。夏はうだるように暑く、冬には雪が勢いよく積もり、住みやすいかと聞かれたら、首を横に振らざるを得ない。そんな場所だ。  東京に住んでいるわたしにとって、その家は驚きに満ちていた。広い前庭、どこまでが敷地なのかも分からないほどに広がった草むら。不思議な形をした植物に、沢山の虫や蛇、蜥蜴のようなもの。  目に映るものの全てが物珍しく、その家で過ごす日々はそれは楽しかったものだ。しかし、長じてくると共に、あれは、いったいどういうことなのだろう、と思うことも多かった。  つまるところ、あの家には、『いる』のだそうだ。
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