3.11

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千坂が目覚めたのは9時過ぎと遅かった。 部屋を出ると襖の音を聞きつけた汐織が顔を見せた。 「おはようございます」 それはとても懐かしい声に聞こえた。 「寝坊してすみません」 「いえ。兄もまだ寝ていますから」 言った汐織は2階に駆け上がった。 「お兄ちゃん、起きて」と声がする。 茶の間には朝食の準備が整っていた。 東の窓から射す透明の陽に誘われて窓際に立つ。 「海が目の前なんですね」 僅かばかりの庭の先には低い堤防があって、その先に小さな砂浜があった。海は朝日を受けてキラキラと踊っている。 「はい。潮風が強いから、大変なんです」 「でも、夏は楽しそうだ。目の前がプライベートビーチじゃないですか」 「砂浜の先はすぐに深くなっていて、泳ぐのは危険なんですよ」 汐織は温め直した味噌汁をテーブルに置いた。 「おはよう……」 寝ぼけ眼の吉原が入ってきて、どたりと座り込んだ。 「ご両親は?」 「あぁ、もう出かけてしまいました。家にいるのは午後11時から4時までなんです。それから午後2時頃に戻ってきます」 汐織が応えた。 「コンビニも大変なんですね」 「こんな田舎じゃな。そもそも、売り上げ規模が小さい。都会のようなわけにはいかないさ」 「深夜はパートやバイトで対応できないのか?」 「ここで深夜に働くのはお巡りさんか幽霊ぐらいだよ。利益を出さないとロイヤリティーも払えないからな。バイトはそれほど雇えないんだ」 「それで、私がバイトなんです。賃金ゼロの好待遇」汐織が皮肉交じりにいう。 「家族だから仕方がないだろう。これからは兄ちゃんが働くから安心しろ」 吉原が箸を取って味噌汁を腹にかき込んだ。千坂も箸を手にした。
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