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食事を済ませるとワゴン車の荷物を3人で降ろし、吉原の部屋に運び込む。冷蔵庫や洗濯機といった家電はリサイクルショップに売ってきたので、荷物は少ない。
「荷物が少ないって、重いものばかりじゃない」
箱を抱えて汐織が文句を言う。
「お兄さんの荷物は本ばかりだからね。重いよ。……経済学部なのに、半分は自然科学の本だった」
「へぇー」
汐織はよろよろと階段を上る。
「自然と人間は対なのさ」吉原が言った。
「古本屋に売ってくればよかったのに」
「また読むかもしれないだろう」
「読まないわよ。コンビニの店員なんだから」
「ひどいやつだな。聞いたか亮治」
「あ、ああ」
「汐織、そんな口をきくと、亮治がもらってくれないぞ」
「え?」
汐織はドスンと荷物を置いて振り向いた。
「こら。そんなに勢いよく降ろしたら、床が抜ける」
「う、うん」
汐織は頬を赤く染めて階段を駆け下りた。
「亮治、昨夜、やったのか?」
「何をだ?」
「だよな。お前ぼんやりしてるから……」
吉原は声を上げて笑った。その声から都会の緊張感はすっかり消えていた。
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