0.

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
 あの  本から目を上げて一寸息が止まる  カウンターの前に涙をこぼす女性がいた  驚いて声もかけられない  涙で汚してしまいましたの  申し訳なさそうに言った女性は一冊の詩集を置いた  あぁそうか 繊細な人なのだと勝手に感じ入る  お気になさらず。元々古い本なのです、また一つ思い出が浸み込んだだけですから  こちらは預かるので他を見て回って下さいと言うと  その人はゆっくりとかぶりを振った  私はこちらを買いたいのです 買わなくてはいけないのです  何故 と尋ねると  この本は私の痛みに気付いてしまいましたもの  と眉根を寄せてまた一つ涙をこぼした  私の秘密を知った者を野放しにはできませんわ  続けられた言葉に今度はこちらが眉根を寄せる  貴女は本を人間のようにおっしゃるのですね  その人の瞳が真っ直ぐにこちらを向いた  物語を内包しているという意味では 人も本も同じ枠組みにあるといえるでしょう  彼らと私たちに大きな差は無いのです  言い聞かせるような言葉が胸の真ん中あたりに刺さって 抜けなくなった
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!