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あの
本から目を上げて一寸息が止まる
カウンターの前に涙をこぼす女性がいた
驚いて声もかけられない
涙で汚してしまいましたの
申し訳なさそうに言った女性は一冊の詩集を置いた
あぁそうか 繊細な人なのだと勝手に感じ入る
お気になさらず。元々古い本なのです、また一つ思い出が浸み込んだだけですから
こちらは預かるので他を見て回って下さいと言うと
その人はゆっくりとかぶりを振った
私はこちらを買いたいのです 買わなくてはいけないのです
何故 と尋ねると
この本は私の痛みに気付いてしまいましたもの
と眉根を寄せてまた一つ涙をこぼした
私の秘密を知った者を野放しにはできませんわ
続けられた言葉に今度はこちらが眉根を寄せる
貴女は本を人間のようにおっしゃるのですね
その人の瞳が真っ直ぐにこちらを向いた
物語を内包しているという意味では 人も本も同じ枠組みにあるといえるでしょう
彼らと私たちに大きな差は無いのです
言い聞かせるような言葉が胸の真ん中あたりに刺さって 抜けなくなった
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