第3章 新しい仕事。

30/91
3673人が本棚に入れています
本棚に追加
/312ページ
車は商店街の中にある神社の前に付けられた。 「裏の公園で待っています。」 と永野さんは去って行き、 長い階段の下にふたりで残された。 安西さんは 「相変わらず、長い階段だ。 初詣にお願いする事を考えながら登れる。」と笑った。 人影はまばらで、近所の人達がやって来ているみたいだ。 普段着の親子連れや、年配のご夫婦が参拝している。 安西さんは私の手を引き、階段をゆっくり登る。 「ニーナ、お願い事決まった?」と私を振り返る。 私は黙って頷く。 毎年初詣は家族の幸せを願うって決めている。 安西さんは 「今年は、俺の事も一緒にお願いして欲しいなあ。 お互いに相手の幸せを願うって、素敵じゃない。」 と笑って、私の顔を覗き込む。 「顔が近いです。」 と安西さんの顔を手を握られていない掌で押す。 安西さんはクスクス笑って楽しそうだ。 気に入らない。 境内に着き、参拝の列に並んで 順番が来たら、それぞれお賽銭を入れて、手をあわせる。 私は心の中で、 家族がこの1年間幸せに過ごせますように。と祈り、 ついでに安西さんの幸せもお願いしておいた。 「俺はニーナと幸せになれますようにってお願いした。 ニーナ、俺の事もお願いしてくれた?」と安西さんは私の顔を見る。 「…教えません。」と私はちょっと微笑んだ。 安西さんはチェッと笑って、また、私の手を握ってゆっくり歩き出した。 大きな暖かい手。 並んで歩きながら なんで私は手を振りほどかないいんだろうって そう思った。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!