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真実
「何を考えていたんだい」
ヤーマバナナさんの声で、えるは我に返りました。差し出されていた温かいカップを受け取って、彼女はごまかすように笑いました。
「その本、面白いだろう」
ストーブの前の机でえるが開いていた本を指差して、ヤーマバナナさんが聞きました。固い皮の表紙の、分厚い本でした。
「とても面白いわ。冒頭しか読んでいないけれど、きっと面白い展開になるんだってわかるもの」
「いい予感だ」
ヤーマバナナさんは片方の眉を上げて頷き、いっぱいに入れたお茶がこぼれないように、そっと椅子に腰を下ろしました。
歩くために避けられた本で、道ができていました。この家は、いつだって物語にあふれています。えるが読み書きを教わっていた頃から、ずっと。
「君は、生まれ変わったら鳥になりたいと言っていたね」
太い眉のしたの細い目をさらに細めて、ヤーマバナナさんが言いました。
「空を飛びたいのかい」
「もちろん、それもあるわ」
えるは天井へ目を向けてすこし考えました。
「綺麗な声で歌いたい。それから、木の上で暮らしてみたい。海を渡りたい」
「名前や、言葉のない世界でも」
「名前も言葉も、鳥の世界にはきっとあるわ」
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