月夜の手相占い

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「知ってました? 小山内さんの手のひら」 「手のひら?」 「藤の木の相が出てるんですよ」  にっこりと笑う藤枝に、俺は大きく吹き出した。 「くくくっ。お前の手相占い、当たるもんな」 「ええ。もちろん!」  繋いだ手を引き、藤枝の身体を胸元に引き寄せる。汗ばんだシャツが身体に貼り付いた。  俺は藤枝の耳元で静かに口を開く。 「髪、切るなよ」 「え?」  耳元から首筋に顔を下げていく。後れ毛が鼻先を掠める。藤枝がくすぐったそうに身じろぎした。 「俺、この髪型、好きみてぇだから」 「…………」  藤枝は無言のまま頷いた。視線の先で黒い髪の毛が揺れている。  ゆっくりと顔を起こし夜空を見上げれば、指輪のような丸い月が浮かんでいた。  漸くあいつのメールに返信できそうだ。  ――結婚おめでとう。俺も幸せにやってるぜ。 完
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