ある天使の記憶より

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「チーフ、そういえば拝見していただきたい個体がいます」 「なに?」 「あ、博士お気に入りの『クリストファー』くんですか」 「…クローンに勝手に名前をつけたのか」 「管理はきちんとナンバーで行っています」 「まあいい、どれだ?何か問題があるのか?」 「№295、現在も順調に細胞分裂を行っています」 「僕の目から見てもキレーな天使ちゃんですよー??まだソラマメサイズの肉塊だけど」 「見よう、案内してくれ」 -カタカタカタカタカタカタ- -カタカタカタカタカタカタ- -カタカタカタカタカタカタ- 「多翼の個体か。眼球の色は『赤』」 「それもルシフェルと同じ赤ですよ主任サマ」 「翼の色は白、髪はまだ不明です。性別は未確定ですが、このままいけば男性型になるかと」 「別段珍しくないように思うが」 「主任サマにはロマンが足りませんねー。まるでルシフェルと対になるかのような色会わせだってのにー」 「ロマンが数値化できるなら聞いてやる」 「ちぇ」 「で、そのロマンとやらのために私にこれを見せたのか」 「…」 「まあ、ロマンは置いておいて、このクリストファーくんは、今のところ一番数値が安定してるんですよぉ」 「資料は」 「こちらです」 「……確かにひどく安定しているな」 「正直、最初のクローンとして最も成功に近い位置に居ます」 「ほかの失敗したクローンとの差異は?」 「それが、何も」 「…何も?」 「妙っていったのはそこのなんですよ。実はねえ主任サマ、このクリストファー君、もとい№295番、正しくはI回の№295番目は今まで何百と失敗してきた『調整なしのルシフェルの純クローン』なんですよ」 「待て、純クローンは今までⅡ段階目にすら進んだことがないはず」 「…妙っていったでしょ?」 「人口羊水の調整は?」 「…最も基礎的な『人間の羊水』と同じ比率です。温度やその他の配合も人間の母体と同じです」 「純クローンは発育段階のどこで躓くか、どこの因子がまずひっかかるのか…その観察と解剖と薬物実験のために『どうせ死ぬだろうけど』試験的に10体づつは毎回作っているわけですが、こいつはそこから、躓く因子も不明のまま突如抜け出してきた個体なんですよ主任サマ」 -カタカタカタカタカタカタカタ- 「なるほど」 「ね?気味悪いけれど」 「興味深いな」 「さっすが主任サマ分かってるぅー!」
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