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  「そうして目を背け続けていれば、君が名取君達から『やられたこと』に関しては、そのうち君の記憶の中からも消え去っていって、軈て『無かったこと』にできるのかも知れない。でも、君が『してしまったこと』は、もしかしたら、無かったことにはならないかも知れないねぇ。君が泣いて謝っても、果てには忘れてしまったとしても、失われた者は永遠に返ってこないんだからさ」  九条が笠無の肩をぽんぽん、と二度叩く。 「せめてそうならないように、『彼女』が一命を取り留めることを祈るんだね」  最後にそう付け足して、九条は笠無の側を離れる。すると、九条の次の標的となるであろうことを察した少年が、先んじて口を開いた。 「橘って女を実際に閉じ込めたのは、笠無なんだろ。だったら、そいつを捕まえれば、それで解決じゃねぇか」  そう告げる名取の額には、いつの間にか汗が滲んでいた。  まるで犯罪者である自覚があるかのようなその様子に、九条はふふっ、と小さな笑い声を溢す。  
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