1人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
荒屋 あばらや
通学路の途中に、その荒屋はある。苔生さんばかりの古めかしさと奔放な緑に覆われて、黒く静かに沈殿する家。それは妙に庵の心を惹く。誰か住んでいるのだろうかと、一度敷地のぎりぎりまで踏み込んで覗いたことがある。しかし暗くてなにも窺えなかった。そう、この家が目に留まるのは、決まって夕暮れの下校時である気がする。
「庵、部活終わったら肝試し行かないか」
校庭に迷い込んだ猫に構っていたある午後、彼は久々に翔伍に呼び止められた。猫は鳴きもせず、面倒くさそうに消えた。
「部活って、俺帰宅部だし」
「そっかあ、お前帰宅部かあ」
翔伍は仰け反って笑ったが庵はなにも言わなかった。向こうもわかっていたはずだ。わざとらしい。
「でも今日は道場も稽古ないんだろ。な、行こう。まあ行くのは山だけどな、学校の裏の」
「何でそんなとこ行くんだ」
「夏だから」
ああ、わかっていたはずだ。要らぬことを聞いた。庵は翔伍の坊主頭をしばらく見つめていた。
「行かない」
「何でだよ」
かくして行くことになったのである。
最初のコメントを投稿しよう!