荒屋 あばらや

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荒屋 あばらや

通学路の途中に、その荒屋はある。苔生さんばかりの古めかしさと奔放な緑に覆われて、黒く静かに沈殿する家。それは妙に(いおり)の心を惹く。誰か住んでいるのだろうかと、一度敷地のぎりぎりまで踏み込んで覗いたことがある。しかし暗くてなにも窺えなかった。そう、この家が目に留まるのは、決まって夕暮れの下校時である気がする。 「庵、部活終わったら肝試し行かないか」 校庭に迷い込んだ猫に構っていたある午後、彼は久々に翔伍に呼び止められた。猫は鳴きもせず、面倒くさそうに消えた。 「部活って、俺帰宅部だし」 「そっかあ、お前帰宅部かあ」 翔伍は仰け反って笑ったが庵はなにも言わなかった。向こうもわかっていたはずだ。わざとらしい。 「でも今日は道場も稽古ないんだろ。な、行こう。まあ行くのは山だけどな、学校の裏の」 「何でそんなとこ行くんだ」 「夏だから」 ああ、わかっていたはずだ。要らぬことを聞いた。庵は翔伍の坊主頭をしばらく見つめていた。 「行かない」 「何でだよ」 かくして行くことになったのである。     
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